相続人が認知症のとき遺産分割はできる?成年後見・特別代理人と相続登記を司法書士が解説
「父が亡くなり、母も相続人ですが、認知症があります」
「家族が代わりに遺産分割協議書へ署名してもよいのでしょうか」
結論からいうと、認知症という診断だけで遺産分割が一律にできなくなるわけではありません。
大切なのは、本人が遺産の内容や分け方を理解し、自分の意思で判断できるかどうかです。
判断能力が十分でない状態で、家族が代筆したり、本人名義の実印を押したりしても、有効な遺産分割協議になるとは限りません。そのまま相続登記や預貯金の解約を進めると、手続きが止まるだけでなく、後から遺産分割協議の効力をめぐって問題が生じる可能性があります。
本人が協議内容を理解して意思表示することが難しい場合は、家庭裁判所へ成年後見などを申し立て、選任された成年後見人等が本人を代理する方法を検討します。
この記事でわかること
- 認知症の相続人がいるときの判断ポイント
- 家族による代筆や実印の使用が危険な理由
- 成年後見・保佐・補助の基本的な違い
- 特別代理人が必要になる利益相反の場面
- 遺産分割から相続登記までの進め方

認知症でも遺産分割に参加できる場合があります
認知症には症状や進行の程度に幅があります。
医療機関で認知症と診断されていても、遺産の内容、相続人の範囲、分割案の結果を理解し、自分の意思を示せる場合は、本人が遺産分割協議に参加できる可能性があります。
反対に、診断を受けていなくても、協議内容を理解できない状態であれば、署名押印だけを求めて進めることは避けるべきです。
判断能力は、年齢や病名だけで決めるものではありませんし、会話の様子だけで家族が断定するのも危険です。本人の生活状況、医師の診断、協議内容の複雑さなどを踏まえて個別の確認が必要です。
一時的に会話できることと法律上の判断は別です
名前や家族関係を答えられても、不動産の価値、預貯金の額、自分の法定相続分、取得しない財産などを理解できるとは限りません。
遺産分割は、財産に関する重要な法律行為です。「今日は調子がよさそう」というだけで急いで協議書へ押印してもらうことはおすすめできません。
家族が代筆して遺産分割協議書を作ることはできません
本人の判断能力が不十分だからといって、子どもや配偶者が当然に代理人になれるわけではありません。
委任状を作る場合も、本人が委任の意味と内容を理解して意思表示できることが前提です。家族が本人の実印を保管していても、本人の意思に基づかず押印することはできません。
相続人全員の有効な合意がなければ、遺産分割協議に基づく相続登記は進められません。
本人の利益を守るためにも、判断能力に疑問があるときは、協議書を先に完成させるのではなく、手続方法を確認しましょう。
関連記事:遺産分割協議書の記載ミスと作り直し
判断能力が十分でない場合は成年後見制度を検討する
成年後見制度は、認知症、知的障害、精神障害などにより判断能力が十分でない方について、家庭裁判所が本人を法律的に支援する人を選ぶ制度です。
判断能力の程度に応じて、後見、保佐、補助の三つの類型があります。
後見
判断能力が欠けているのが通常の状態にある方を対象とします。
成年後見人は、本人の財産に関する法律行為を広く代理し、本人の財産を管理します。
保佐
判断能力が著しく不十分な方を対象とします。
保佐人は法律で定められた重要な行為について同意権を持ち、家庭裁判所から特定の代理権を付与されることがあります。遺産分割を代理するには、そのための代理権が必要です。
補助
判断能力が不十分な方を対象とします。
本人の同意を得て、必要な範囲で補助人へ同意権や代理権を付与します。
どの類型になるかは家族が選んで確定するものではなく、医師の診断書などを踏まえて家庭裁判所が判断します。
成年後見は遺産分割が終わっても続きます
「遺産分割のときだけ後見人を付けたい」と考える方もいます。
しかし、法定後見は、遺産分割や預貯金解約など申立てのきっかけとなった用事が終わっても、本人の判断能力が回復するか、本人が亡くなるまで続くのが原則です。
家族の希望だけで終了することはできません。
成年後見人は、就任後に本人の財産を管理し、家庭裁判所へ定期的に報告します。専門職が選任された場合は、家庭裁判所の審判により本人の財産から報酬が支払われることがあります。
申立て前に、遺産分割後の財産管理や本人の生活支援まで含めて制度を利用する必要性を検討しましょう。
成年後見人と本人が共同相続人なら特別代理人が必要なことも
たとえば、父が亡くなり、認知症の母と子が相続人になったケースを考えます。
子が母の成年後見人に選任されても、子と母が同じ遺産を分ける場面では、両者の利益がぶつかります。子が自分の立場と母の代理人の立場を兼ねて協議することはできません。
このような利益相反がある場合、家庭裁判所へ特別代理人の選任を申し立て、その特別代理人が本人を代理して遺産分割協議に参加します。
成年後見監督人が選任されている場合は、監督人が本人を代理するため、特別代理人の選任が不要となることがあります。
また、保佐人・補助人の場合は、遺産分割の代理権が付与されているかも確認します。
関連記事:未成年相続人と特別代理人
本人の法定相続分を守ることが基本です
成年後見人等は、本人の利益を守る立場です。
「母は施設にいるので財産はいらない」、「将来は子どもが引き継ぐから、子ども名義にしたい」と家族が考えても、それだけで本人の取得分をゼロにする遺産分割協議が認められるとは限りません。
一般的に、本人の法定相続分を確保する内容が基本となります。法定相続分と異なる協議案に合理的な理由がある場合は、本人の利益を害しないことを具体的に説明する必要があります。
相続税、施設費、本人の生活費、自宅での居住継続なども関係するため、必要に応じて税理士や弁護士とも連携して検討します。
遺産分割から相続登記までの流れ
1.相続人と遺産を調査する
戸籍で相続人を確定し、不動産、預貯金、有価証券、借金などを確認します。
遺言書がある場合は、遺産分割が必要か、遺言執行者がいるかも確認します。
2.本人の判断能力と支援方法を確認する
本人が協議内容を理解できるかを慎重に確認します。
判断能力が十分でない場合は、後見・保佐・補助のどの申立てが適切か、代理権が必要かを検討します。
3.家庭裁判所へ申立てをする
本人の住所地を管轄する家庭裁判所へ申立てを行います。申立書、診断書、本人情報シート、財産や収支に関する資料などが必要です。
候補者を記載しても、その人が必ず選任されるとは限りません。家庭裁判所が本人のために適切な人を選びます。
4.必要なら特別代理人を選任する
後見人等と本人が共同相続人になる場合など、利益相反があるときは、別途、特別代理人等の選任を申し立てます。
家庭裁判所へ遺産分割協議書案や財産資料の提出を求められることがあります。
5.遺産分割協議と相続登記を進める
適切な代理人を含む相続人全員で協議し、遺産分割協議書を作成します。
不動産の取得者が決まったら、戸籍、協議書、印鑑証明書などを添えて相続登記を申請します。
相続登記には、相続で不動産を取得したことを知った日から3年以内という原則的な期限があります。後見申立てに時間がかかる場合もあるため、早めに準備しましょう。
関連記事:相続登記の必要書類
よくある質問|認知症の相続人と遺産分割
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認知症の診断書があれば必ず成年後見が必要ですか?
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必ずとは限りません。診断名だけでなく、本人が今回の遺産分割を理解し判断できるかが重要です。個別に確認してください。
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家族が本人の実印を押せば相続登記できますか?
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本人の有効な意思表示がないまま実印を押しても、有効な協議にはなりません。家族が当然に代理できるわけでもありません。
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成年後見人には家族を選んでもらえますか?
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家族を候補者として記載できますが、誰を選任するかは家庭裁判所が決めます。専門職が選任されることもあります。
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遺言書があれば成年後見は不要ですか?
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遺言の内容どおりに執行でき、本人の協力を必要としない場合は、遺産分割協議が不要なことがあります。ただし、預貯金や不動産の手続、遺留分など個別確認が必要です。
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司法書士にはどこまで相談できますか?
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相続登記、戸籍収集、協議書作成、成年後見申立書類の作成などを支援できます。相続人間の交渉や紛争解決が必要な場合は弁護士への相談をご案内します。
まとめ|家族の判断だけで代筆せず、本人を守る手続きを選びましょう
相続人に認知症があっても、本人が協議内容を理解し判断できれば、遺産分割に参加できる可能性があります。
また、判断能力が十分でない場合は、家族が代筆したり実印を押したりせず、成年後見など本人を法律的に支援する制度を検討します。
後見人と本人が共同相続人となる利益相反の場面では、特別代理人が必要になることもあります。後見開始後の財産管理まで見通して、早めに手続きを整理しましょう。
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🖋この記事の監修者
司法書士・行政書士 小林信之介
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